小話






例えば。
「例えば、だよ」
主の足の傷を手当てしながら、思わず声を荒げてしまう。
傍から見れば無礼千万な忍びに見えるだろうけど、この際上下関係とかどうでもいいと思うんだよね。
だって怪我してるのはあっちだけど、損害被ってんのはどう考えても俺様のほうだし。
「俺様がアンタの軍の忍びじゃなくて、敵軍の忍びだったとして、」
主の表情を見て、例えばだからね?とつい念を押してみたけど、面倒くさそうに舌打ちをされた。
何、その態度。傷口に唐辛子塗りこんでやろうか。
「アンタこの7日間で3回は首とられてるよ、絶対。間違い無いね」
「…」
だんまりか。
だったら好きに言わせてもらうよ。
「ちっとは周りにも気ぃ遣ってくれよ、アンタが殺されたら軍が総崩れになるんだから」
「…」
「俺様これ特別給とか無しでやってんのよ?偉くない?」
「…」
「ここで働きだした時は片倉の旦那のこと小うるさいとか思ったけど、今はあの気持ちよぉーく分か」
「あー!うるせぇっ!くそ猿!!」
急に大声でがなり立てた主をちらりと見ると、反省の色の無い不機嫌顔だ。
何を言っても駄目だと思い、わざと大きくため息をついて、そのままこっちも黙り込んでみる。
無言のまま手当てを続けて、一応の応急処置を終えた時だった。

「…悪かった」

えっ。今何だって?
思わずまじまじと主の顔を見ると、きまり悪そうに顔を背けてしまった。
「だから、悪かったっつってんだろ」
「あ、いや、うん。分かってくれればいいんだけど」
いきなりそんな、柄にも無いこと言うもんだから、不覚にもちょっと動揺してしまった。
槍でも降るんじゃないの。降るんなら敵陣に降ってくれよ。
えーどうしよう。俺言い過ぎた?そんなにきついこと言ったつもりないんだけど。
「……例えば、だからね?さっきの話」
「Crud you!しつけぇんだよ!」
悪態ついて威勢良く立ち上がって。足の傷が痛かったのか、少しよろめいた。
ちょっとカッコつかないなぁとか思ったけど、まぁ、今日は何も言わないでいてあげるよ。

だってさぁ。
”例えば”の話なのに、あんな顔されちゃ、ねえ?










佐助が伊達軍で小話。
(2008/1/5)