2007/7/17 Log




さか道、けもの道、すきな道。
腕の中のふわふわした温かさに、梵天丸は満面の笑顔で慣れた道を走り出した。



「佐助!いるか?!」
自分の名を呼ぶ威勢の良い声に、木の上で昼寝をしていた佐助は驚いて目を覚ました。
どうしてこうすぐに見つけてしまうのだろう。
嬉しいような、忍びとしては悲しいような、複雑な心持ちで小さくため息をつく。
「佐助ー!ほら、うさぎさん!」
捕まえたぞ、と、語尾はなかなか降りてこない佐助に苛立ったように大きくなった。地団駄踏むこらえ性の無い小さな子供の姿が、ありありと目に浮かぶ。
「はいはい、只今!」
うさぎさん、なんて言っちゃって。初めて会ったときよりも随分と慣れて我侭が増えてきたが、やはりまだまだ可愛いものだ。枝から飛び移るように下へ降りていくと、こちらを見上げる幼い顔が目に入った。その前に静かに降りて視線の高さを合わせる。
「うさぎさん」
「…」
自分がそうで無かったから、”無邪気な子供”というものに、少し夢を見ていたのかもしれない。
小さな命を愛しむように、そっと両腕の中にふわふわのうさぎを抱いている子供。
しかし現実に目の前にいるのは、右手にうさぎの両耳を掴み、正に捕らえた獲物を誇る鷹狩から帰った武士のような堂々とした姿。
「あの…」
「うさぎさん」
「うん、あのさ」
「おいしいうさぎさん」
「…」
確かに、自分もこの年頃には野うさぎの皮を剥いで食べたりした。だが、だからこそ嫌なのだ。
「でもほら、そんなふうに掴んだらうさぎさん耳痛いって」
「あとで食べるのに」
「…はい、ごもっともで」

小さな小さな、自分の理想。
相手の痛みを知って欲しい。一瞬でいいから、知らぬ相手が生きた道を想って欲しい。
自分には許されなかったことだから。
そのために生まれる隙など、全て補ってみせる。

「佐助」
「はい?」
「仕事、疲れるか?」
「は、あ、いえ」
心臓が跳ね上がった。
「…駄目ですよ、忍びに気なんて使っちゃ」
無理矢理笑うと、梵天丸が目を細めて不遜な顔で佐助を睨めつけた。
「うさぎに気を使えと言ったのにか?」
「いやぁ、えー…」
「そんなことは自分で決める」
不機嫌にそう言うと、梵天丸はうさぎを佐助に押し付けてさっさと走って行ってしまった。
その後姿を見送りながら、ふとあることに気が付いた。
「さっき”うさぎ”って言ったな…」
猫をかぶって相手の理想に合わせてみたり、気に入らなければすぐに放り出したり。
「根っからの殿様には敵わないね」
押し付けられたうさぎを見ながら、佐助は堪えきれずに小さく笑った。










うちの佐梵は大抵佐←梵。