・・ ・ * ・ * Merry Christmas * ・ * ・ ・・




(おかしい…)

今日はクリスマス、恋人達が美しいイルミネーションを見上げながらよろしく楽しむ聖なる日だ。
そのはずだ。
しかし今、佐助は歯の根も合わぬほどの寒さの中、降りしきる雪を払いながらスコップを握っていた。黒いゴム長靴を履き、帽子を目深にかぶり、マフラーは顔半分を覆うようにぐるぐる巻きにしている。
「さぼってんじゃねえぞ佐助」
「はい…」
同じように防寒衣で身を固めた政宗が、帽子とマフラーの隙間から鋭く佐助を睨んでいる。

前日の質問の一体何が悪かったのだろうか。
『何か欲しいものある?』
当たり障りのない言い方だったはずだ。返答も良かった。むしろあの流し目で『あんた』と言われたのだから、ついにやったかと心の中で勝利の叫びをあげても、誰も自分を責められないだろう。だがその後に続いた『…と、真田幸村も呼べ』の一言に、ぽかんとしつつも佐助には展開が容易に予想できた。

「雪下ろしならそう言ってよ…」
「言ったら来ねえだろ」
「真田の旦那なら喜んでついてくるでしょうよ」
少し険を含んだ声で返してみたが、政宗はとくに気にした様子も無く、「ああ」と呟いて背を逸らせている。
「…あの野郎、思ったより役に立たねえな」
先ほどから姿が見えない幸村は、政宗の実家に着いた途端、この一面の雪景色に飛び出して行ったきりである。
立派な日本家屋の屋根の上から見えるのは白一色で、その景色は今日という日がクリスマスでなければさぞ見ごたえがあっただろう。
(いやいやいや…)
諦めるのは早い。
佐助はスコップを握り直すと、自暴自棄になりかけた思考を打ち消すように勢いよく雪をかいた。
もしかしたら、あの時はたまたま意思の疎通がうまくできていなかっただけかもしれない。きっと言葉が足りなかったのだ。良いように解釈し、佐助は意を決して顔を上げた。視線の先には、雪下ろしをしているだけでも何故か尊大に見える政宗がいる。激しくなる風雪の中、佐助の心境はまさに難攻不落の城塞へ向かう兵士である。
「あ、あのさぁ!今日ってクリスマ」
「ぁあ?!何だって?」
東北の風はどうやら佐助にとって逆風らしい。一際強く吹いた風に、佐助の声は見事にかき消されてしまった。不覚にも涙が出そうになったのをなんとか堪え、今度は風が止んだのを見計らって声をかける。
「なぁ」
「何だよ」
「アンタはクリスマスプレゼ」
「政宗どのぉおっ!いざ、勝負っ!」
「っ…」
素晴らしいとしか言いようの無いコントロールで突然飛んできた雪玉は、見事に政宗の顔面に命中した。屋根の上から下を見ると、今までどこにいたのか、幸村が満面の笑顔で雪玉を抱えてこちらを見上げていた。
「…今年がてめえのLastChristmasだ真田幸村ぁっ!」
「ぶあっ!」
屋根から大量に雪が落とされた。その直撃をくらった幸村の情けない声に、「みんな嫌いだ」という佐助の切実な呟きはまた政宗の耳には届かなかった。










短めですが一応クリスマス小話ということで。
クリスマスまでに何話か書けるといい、な。。
とりあえず大学生活1年目って設定だと思ってください。
(2007/12/06)