02.侵入者
午前は大学の講義。
午後は酒屋でアルバイト。
いかにも学生らしい一日を終えた佐助は、へとへとになってアパートに帰ってきた。
狭いながらも落ち着くねぐらには、先日買ったばかりの真新しいこたつ。冷蔵庫には、昨日バイト先の店長から貰ったビールが冷えている。しかも明日は講義もバイトも休みだ。今夜は久々にのんびりできる。
そして、何より。
自分の部屋からもれる明りに、佐助は思わず顔が緩んだ。
「ただいまー!伊達、ちゃ、ん…」
「佐助!遅かったな!」
「おかえり、あなたぁ」
「あ、佐助、七味どこだよ七味」
「……」
2人余分だ。
買ったばかりのこたつに見飽きた顔の男が2人座って鍋をかこんでいる様子に、佐助は玄関先で固まった。呆然とする佐助の顔を、政宗が覗き込む。
「おーい、どうした佐助」
その声にようやく我に返り、靴を脱ぎ捨て、どかどかとこたつで温まる2人の前に出た。
「帰れ!」
佐助が怒鳴ると、鍋をつついていた幸村はびくりとしてネギを取り落とした。対して向かい側の銀髪の男は少しも動揺せず、軽く肩を竦めただけだ。
「さ、佐助、すまん、このように長居をするつもりではなかったのだが、あまりにも腹が減って…!」
「腹が減っては何とやらだもんなぁ、気にすんなよ!ほら、たーんと食え!」
「ちょ、ちょうそかぶ殿…!」
「”べ”だ、馬鹿野郎!ちょうそか”べ”!」
訂正しながら元親が幸村の皿にネギや白菜を取り分けていく。見れば元親の皿にのっているのは肉類ばかり。
こんな時に栄養バランスのことを考えてしまった自分に、佐助は少し嫌気がさした。
「佐助」
「だ、伊達ちゃん!」
後でやりとりを見ていた政宗に、佐助は助けを求めるように視線を投げた。おそらく彼がこの2人を部屋に入れ、鍋を作った張本人であろうが、そんなことは棚上げだ。
「何とかしてよこの2人!勝手に上がりこんで鍋食って…」
「佐助!」
「な、なに?」
「七味」
「……っ」
泣きたい。
政宗の肩に顔を埋めて身を震わせる佐助に、少し驚いた政宗は「七味は今度買ってやるから泣くなよ」と見当違いな慰めをして頭を軽くたたいた。
「…何だか俺らがわりぃことしたみてぇじゃねぇか」
元親の言葉に佐助が勢いよく顔を上げ、その銀髪頭を睨みつける。
「してんだよ!せっかく伊達ちゃんと2人で鍋やりながらビールでも飲もうと思ってたのに…」
「ビールもあんのかよ!」
嬉々としてその単語に反応した元親を見て、佐助が手で顔を覆う。それを幸村と政宗は驚いた様子で眺めていた。
いつもは口八丁で相手を煙に巻く佐助が、墓穴を掘るとは。
元親が冷蔵庫へ向かおうとするのを佐助が制し、自分でビールを運んでくると、どんと勢いよくこたつの上に置いた。幸村は黙ったままの佐助が怖いらしく、鍋へ伸ばした箸を動かせずにいた。
しばらくの沈黙。
「…ちくしょー飲むぞーっ!」
「お、おおぉーっ!」
「俺の四国に乾杯!俺にかんぱーい!」
やけになった佐助は、今までに無い勢いでビールを平らげていくのだった。
酔いつぶれて眠る3人を見ながら、政宗はため息をついた。
聞こえてくるいびきは2人分で、こたつから頭だけを出している男は静かだった。
「おい」
軽くその派手な頭を小突いた。
「寝たふりすんな」
「…」
「起きてんだろ」
「…鍵」
「?」
こんな馬鹿騒ぎがしたくて合鍵を渡したんじゃない。
こたつに顔を隠したまま、佐助が言った。
子供のように拗ねる佐助の様子が新鮮で、政宗はつい笑いそうになる。
「悪かった」
言うと、顔まで隠れた頭が少しだけ身じろいだ。
こうやって佐助の珍しい反応を見るのも、たまには面白いかもしれない。
政宗はひとり残ったビールを飲みながら、またこの2人を引っ張り込んでやろうと、小さく笑みを浮かべた。
初現代パラレル。皆大学生です。なんとなく。
現代パラレルだと、サスダテでも甘くなるから不思議…。
(2007/2/1)